設備の全体概要  
                   
   高度な材料物性評価技術を確立しその活用を図るため、下記の5分野の評価技術を選定し、SPring-8ビームラインマップに示されているようにBL16XUとBL16B2の2本のビームラインを建設しました。  
        (1) X線回折・散乱測定による各種材料の構造解析      
        (2) 蛍光X線分析による元素分析        
        (3) マイクロビ−ムの形成とその応用(蛍光X線分析, X線回折, XAFS等)    
        (4) 硬X線光電子分光法による埋もれた領域の化学状態分析      
        (5) XAFS (X線吸収微細構造解析)による局所構造解析      
        (6) X線イメージングによる材料評価(X線トポグラフィ, X線CT等)      
   BL16XUとBL16B2はSPring-8標準仕様をベースとし、共用ビームラインにおいて需要の多い実験設備を設置するとともに各社装置による独自の実験が可能な設計となっています。挿入光源(ID)ビームライン(BL16XU)及び偏向電磁石(BM)ビームライン(BL16B2)の基幹設備と実験設備の構成図を以下に示します。2本のビームラインは一体型のハッチ構造となっており,隣接して設置されています。実験ハッチには各種実験装置を配置するとともに、各社持ち込み装置を設置する余裕が設けられています。  
 
概要
 
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
  BL16XU/BL16B2全体構成  
                   
                   
  光源(ビーム)の特性  
 


 
               
                   
                   
                   
                   
                   
                   
                   
                   
                   
                   
                   
                   
                   
                   
  挿入光源(ID)ビームラインの概要  
                   
   IDビームライン(BL16XU)は、アンジュレータ(光源)、基幹部、輸送部、光学ハッチ、実験ハッチ等で構成されています。アンジュレータで空間的に集中した強力な準単色X線を放射し、さらに単色化、整形、収束しつつ高効率で実験ハッチに導きます。実験ハッチ内に設置した、硬X線光電子分光装置、X線回折装置、マイクロビーム形成評価装置および蛍光X線分析装置により、電子・磁気デバイス材料、エネルギー関連材料、機能性構造材料等の評価解析を行い、製品の性能向上と新規材料の創生に資することを目指しています。また、挿入光源ビームラインでは腐食性や毒性を持つガスを利用する実験が可能です。  
                   
  設計上の特徴            
    (1)   光源は真空封止型水平直線偏光X線アンジュレータであり、磁石周期長を標準型(32 mm)より長
      くしました(40 mm)。これにより、低エネルギー光子のビームを出し易くなりました。  
    (2)   液体窒素循環冷却方式の2結晶単色器を採用し、高強度、高輝度のX線利用が可能です。  
    (3)   輸送部にダイヤモンド移相子を挿入することで円偏光X線を生成することが可能です。  
    (4)   輸送部にチャンネルカット結晶分光器を挿入し、硬X線光電子分光用に高エネルギー分解能X線
      が利用可能です。          
    (5)   輸送部の収束ミラーの収束位置にピンホール用スリットを置き、マイクロビーム形成用の仮想光  
      源としました。          
                   
                   
  硬X線光電子分光装置(HAXPES)          
    (1) 研究内容: 薄膜材料、バルク材料の表面における組成分析、化学結合状態分析、バンド構造解析  
    (2) 装置の特徴:  
 
    25 µm角に集光された励起X線により、斜入射配  
      置での高感度測定や全反射測定が可能です。  
    最大60×20 mmの大型試料ホルダーと自動測定  
      機能により、多くの試料を効率よく測定できます。  
    アッテネータを用いて検出器の飽和を抑制し、主  
      成分から微量元素まで高い精度で測定できます。  
    電子銃とイオン銃を組み合わせた帯電中和システ  
      ムにより、絶縁物を含む幅広い試料に対応します  
    試料搬送ベッセルを用いた真空・不活性ガス雰囲  
      気下での試料導入に対応しています。  
    (3) 技術レベル    
    6, 8, 10 keVの励起X線を用いた測定で、エネルギー分解能250 meV以下を達成しています。  
    シリコン表面のヒ素の測定感度として、1×1012 個/cm2 (1/1000原子層)レベルを達成しています  
                   
                   
  ID回折装置(8軸回折計)          
    (1) 研究内容: 薄膜、粉末、バルク材料などの構造解析、応力解析      
    (2) 装置の特徴:          
    薄膜回折、粉末回折、面内回折、反射率測定など広範な利用が可能です。      
    回折アームの可動軸を増やすとともに可動範囲を大きく取り、多彩な測定条件での回折実験を可能にし
      ています。(垂直方向2q=-5 º 〜 150 º、水平方向2q=-10 º 〜 50 º)      
    NaI、YAP検出器に加えて、PILATUS、MYTHEN等
回折計
 
      の多次元検出器を用意しており、応力や逆格子マ  
      ッピング等の高速測定が可能です。  
    Anton Paar製の試料加熱装置を用意しており、特  
      のガス雰囲気中で1100 ºCまでのin-situ測定が  
      能です。    
    各種試料ステージを用意しており、直径300 mmウ  
      ハのX線回折のマッピング測定が可能です。  
    ゴニオ連続スキャンによる高速測定が可能です。  
    (3) 技術レベル    
    実際の半導体プロセスで用いられる直径300 mmのシリコンウェハ上に形成された厚さ1 nmのシリコン  
      酸化膜の反射率測定において、12桁までの強度変化測定を実現しています。    
                   
                   
  マイクロビーム形成評価装置          
    (1) 研究内容: デバイスや生物学的試料などの微小部点分析及び顕微イメージング    
    (2) 装置の特徴:  
 
    微小部ピンホールを仮想光源とし、ピンホールサイズ  
      の選択により集光サイズを任意に変更できます。  
    ビームサイズに応じて集光光学系の切り替えが可能  
      です。(楕円筒面ミラーおよびフレネルゾーンプレ  
      ト)      
    試料は50 nmステップで2次元走査でき、試料回転と  
      組み合わせることによりCT(3次元観察)も可能です。  
    集光したビームを用いて微小点の回折測定/ 蛍光X  
      線測定/ XAFS測定/ XMCD測定が可能です。  
    (3) 技術レベル    
    0.5 µm角の微小ビームを容易に形成できます。  
    蛍光X線を利用してデバイス等の微細構造物や毛髪等の生体試料の元素マッピングが可能です。  
    0.5 µm角領域のEXAFS測定が可能です。        
    6.2 keV〜9.0 keVの範囲で円偏光X線を形成し,XMCD測定による元素選択磁化マッピングが可能です。
    1 µm角領域のESMH (Element Specific Magnetic Hysteresis)測定が可能です。    
                   
                   
  蛍光X線分析装置          
    (1) 研究内容: 薄膜材料、バルク材料、ウェハなどの組成分析、微量分析、不純物分析、状態分析    
    (2) 装置の特徴:          
    2つの検出方式(波長分散/エネルギー分散)で蛍光X線スペクトル測定とXAFS測定が行えます。  
    波長分散検出では、LiF、PETなど7種の分光結晶から選択でき、原子番号がカーボンよりも大きい全元
      素の分析が可能です。          
    試料ステージは直径200 mmまでのウェハを搭載でき、全面の元素マッピング測定が可能です。  
    X線の入射条件を直入射から全反射まで変えられ、反射率測定にも対応できます。    
    (3) 技術レベル  
DSCF3560
 
    波長分散検出を用いた場合のシリコン中ヒ素の検  
      出下限(測定時間100秒)として、バルクで8 ppb、  
      薄膜表面で1.2×10-12 g (照射面積0.15 cm2 )  
      達成しています。    
    面分解能10 µmレベルで元素マッピング測定可能  
      です。    
       ※蛍光装置利用の際は、実験ハッチ最下流に装置を  
        設置し、使用します。    
             
             
                   
  偏向電磁石(BM)ビームラインの概要  
                   
   BMビームライン(BL16B2)は、広いエネルギー範囲のX線を用いて、X線吸収端微細構造解析(XAFS)、X線トポグラフィやCTイメージング等の実験およびX線回折測定を行うことを目的としています。大強度で広いエネルギー範囲のX線を利用して、電池材料、機能性材料などの評価、開発を行っています。また、腐食性や毒性を持つガスを利用する、使用環境下での材料評価が可能になっています。  
                   
  設計上の特徴            
    (1) 単色器は可変傾斜型であり、Si (111)、(311)、(511)の各面を切り替えて使用できます。X線のエネルギ
      ーとしては、産業界で重要なチタンからハフニウム、タングステンなどの様々な遷移金属元素や希土類  
      元素の吸収端エネルギーをカバーできるように、4.5 keV〜113 keVの範囲を利用できます。また,   
      MOSTAB搭載の単色器により,高速走査X線吸収測定 (Q-XAFS)を可能にしています。    
    (2) X線円筒ミラーを用いることにより高調波除去及びX線ビームの集光が可能です。また実験に応じてミラ  
      ーをビームパスから外すことができます。        
                   
                   
  BM実験架台            
    (1) 研究内容: XAFSを用いた薄膜材料・粉末試料などの化学状態・局所構造解析、トポグラフィを用いた半導  
    体材料などの評価、CTなどのX線イメージング
 
    (2) 装置の特徴:    
    自由な実験配置を実現するために、エアーパッド  
      上式ステージを採用した大型定盤を設置していま  
      す。      
    BMビームラインにおける広いエネルギー範囲のX  
      線を用いた各種X線利用実験 (XAFS、トポグラフ  
      イメージングなど)が実施可能です。  
    検出器として19素子SSD、単素子SSD、NaI検出  
      転換電子収量検出器、ライトル検出器、イオンチェ  
      ンバー(IC)を利用可能です。またIC用電離ガスと  
      て任意の混合比で調整可能なガス混合装置を設  
      置しています。    
    2次元検出器として、PILATUS検出器、フラットパ  
      ル検出器およびX線イメージインテンシファイア(12インチ径)および高感度/高ダイナミックレンジのCMOS
      カメラを用意しています。CMOSカメラをXAFS検出器として用いることでmmオーダーの領域における2次
      元XAFS測定をおこなうことができます。        
    高速XAFS測定による化学反応の進行状態解析が可能です。      
    冷凍機を用いた低温XAFS測定やユーザー持込み高温炉による高温XAFS測定も可能です。  
    腐食性や毒性を持つガスを実験ハッチ内の試料チャンバーに導入し、さらにこれらを除去して排気する  
      設備を設置しているので、材料の使用環境下での評価が可能です。      
                   
                   
  BM回折装置(6軸回折計)          
    (1) 研究内容: 薄膜、粉末、バルク材料などの結晶構造解析、試料内部の応力測定など    
    (2) 装置の特徴:          
    BMビームラインの高エネルギーX線を用いた回折実験が可能です。      
    薄膜回折、粉末回折、反射率測定など広範な利
 
      を考慮しています。    
    NaI、YAP検出器に加えて、PILATUS、MYTHEN等  
      の多次元検出器や、Anton Paar製の試料加熱装  
      置を用意しており、高速でのX線回折測定やin-situ  
      測定が可能です。    
    各種試料ステージを用意しており、直径200 mmウ  
      ェハのX線回折のマッピング測定が可能です。  
    ゴニオ連続スキャンによる高速測定が可能です。  
    (3) 技術レベル    
    50 keVの高エネルギーX線を用いて、側傾法によ  
      る鉄鋼材料の内部応力評価が可能です。