設備の全体概要

 

 1996年に民間13社・グループで発足したサンビーム共同体は、放射光分析技術の産業利用を目的としてSPring-8に2本のビームラインを建設し利用運営してきました。2024年度よりビームラインと一部の実験装置を理化学研究所に移管し、新たな体制となってより豊かな社会を実現することを目的とし、理化学研究所の協力の下、2024年12月現在6社の民間企業で構成され、主にBL16XUとBL16B2の2本の理研ビームラインを利用しています。


BL16XU、BL16B2の機器配置図(2024年12月時点)
赤色がサンビーム共同体装置、緑色が理化学研究所に移管した装置



ビームライン  

 大型放射光施設(SPring-8)に設置された2本のビームライン(BL16XUおよびBL16B2)を利用しています。光源はそれぞれ真空封止型水平直線偏光X線アンジュレータ(BL16XU)、偏向電磁石(BL16B2)であり、サンビーム共同体各社のニーズに対応するべく整備が進められています。

光源(ビームの特性)

 

BL16XU

BL16B2

エネルギー範囲

4.572 keV

4.5113 keV

エネルギー分解能

ΔE/E

10-4

10-4

光子数

ビームサイズ

1012

photons/s

1 mm × 1 mm 以下

1010

photons/s

0.1mm(V) × 0.1 mm(H)

ミラー使用時

1010

photons/s

0.5 μm × 0.5μm 以下

マイクロビーム形成時

5 mm(V) × 50 mm(H)

ミラー不使用時



BL16XU
 アンジュレータの磁石周期長をSPring-8標準の32mmより長い40mmとすることにより、産業界で重要な元素の一つであるTiのK吸収端を用いた吸収分光の計測が可能な低エネルギーX線が利用できます。 分光器には液体窒素循環間接冷却方式の二結晶分光器を備えています。本分光器は 2024年度夏季に理化学研究所が更新し、分光結晶は対称反射のSi(111)および Si(311)の二組の二結晶分光器であり、Si(111)とSi(311)を並進で切り替えて利用できます。 分光器下流に入射X線の縦方向の集光と高次光低減のために Rhコートされたベンドシリンドリカルミラー(集光鏡)が備えられています。 縦跳ね配置であり、光軸から退避も可能です。これを用いることで、測定試料位置で 1mm角以下のビームサイズで高いフラックスと安定性を得ています。



BL16B2
 可変傾斜型分光器を備えており、Si(311)とSi(111)、Si(511)を分光結晶の傾斜によって切り替え、 4.5keV〜113keVの広帯域エネルギーのX線が得られる仕様となっています。光学ハッチ内には、高次光低減およびサブミリ程度に集光のために Rhコートのベンドシリンドリカルミラー(集光鏡)を備えており、XAFS測定時に高次光低減とフラックス増加に役立っています。 一方、イメージング利用で幅広ビームが必要な場合は、集光鏡は退避可能です。ミラー退避時のビームサイズは最大で 5mm(H)×50mm(W)程度が得られています。





実験設備  

 サンビーム共同体はBL16XUにおいてHAXPES装置とマイクロビーム形成装置、BL16B2では大型実験架台を設置し、 XAFS測定、イメージング測定、トポグラフィ測定に利用しています。 また理化学研究所に移管した回折計については理化学研究所が高度化、再整備を進め、新たな計測装置が整備される予定です。 現在利用している評価技術の計測設備は以下のとおりです。

(1) X線光電子分光法による薄膜に覆われた部位など深い領域の化学状態分析

(2) マイクロビームの形成とその応用(蛍光X線分析、X線回折、顕微イメージング等)

(3) XAFSによる局所構造解析(希薄試料用に25素子半導体検出器と専用デジタルアンプを装備)

(4) イメージングによる材料評価(X線トポグラフィ、X線CT等)

(5) X線回折・散乱測定による各種材料の構造解析  ※理化学研究所に移管

共通設備としてその場計測用ガス取扱設備および大気非暴露設備(グローブボックス)を保有。




X線光電子分光装置 (HAXPES) (BL16XU)

 サンビームのHAXPES装置は、産業利用で必要となる様々な機能を備えています。 例えば、産業分野でニーズの高い電池材料の分析に対しては、搬送ベッセルによる大気非暴露導入を可能とし、 電極の測定でしばしば問題となるチャージアップへの対策として、電子とイオンを併用した高性能帯電中和システムやアッテネータ、 X線シャッターを設置することにより、幅広い試料で精度の良い測定が可能となっています。
 また、半導体材料などで必要となる微小領域の分析に対しては、25μ mの集光X線による斜入射配置および全反射測定による高感度分析や、全反射/非全反射を利用した深さ方向の分析が可能となっています。 5端子の電圧印加用試料ホルダーとスロットにより、4端子法を用いた高精度な電圧印加測定にも対応可能です。
 さらに、製品開発における材料探索や性能確認では、多くの試料の分析が必要となるが、長さ 58mmと大型の試料ホルダーによる自動測定が可能である。超高真空の測定チャンバーに併設された予備排気室も排気能力を高めることで、 大型試料の導入と短時間の予備排気を同時に実現しています。
 このようにサンビームのHAXPES装置はこれまでに制御・検出系の更新などを進め、高スループットで使い易い装置として各社の研究開発に活用されています。





マイクロビーム形成評価装置 (BL16XU)

 BL16XUのマイクロビーム形成実験装置は、実験ハッチ最上流のピンホールを仮想光源とし、 KB配置の楕円筒面反射鏡により集光するシステムとなっています。ビームは輸送部のベンドシリンドリカルミラーで縦横集光を行い、 仮想ピンホールで点光源を作成します。更にKBミラーによって縦横それぞれ集光を行うことでマイクロビームを実現しています。 10keVにおける最小ビームサイズは0.2μm×0.23μmとなっており、 XZピエゾステージに設置したサンプルを走査することでマッピングを行います。
 検出器はAmptekの軽元素対応SDD、CdTe検出器、PILATUS100K、透過配置のICなどが利用可能となっており、 LabVIEWを用いて作成したプログラムにより各機器を連動した連続測定を可能としています。 これによりマイクロX-ray fluorescence(μ-XRF)、マイクロX-ray diffraction(μ-XRD)といった測定が同時に利用可能です。
 またFZPによる集光光学系も利用可能となっています。





25素子SSD/実験架台 (BL16B2)

 BL16B2においてはXAFS測定用の検出器としてイオンチャンバー、ライトル検出器、転換電子収量検出器、および25素子Ge半導体検出器を備えています。 25素子Ge半導体検出器は蛍光収量法XAFSにおいて非常に有用な検出器であり、サンビームにおいても微量元素や薄膜試料、あるいは表面敏感計測のために広く活用されています。
 実験架台に関しては、自由な実験配置を実現するためにエアパッド浮上式ステージを採用した大型定盤を設置しており、 その上にθ/2θゴニオメータを備えた試料ステージが設置されています。
 サンビームでは電池材料や触媒材料など広範囲の視野での評価が重要なサンプルにも対応できるように、 10cm角程度の大面積の反応分布を短時間で観察する2次元XAFS測定ソフトを独自に開発しています。
 また、BL16B2ではMOSTAB搭載の単色器により、高速走査X線吸収測定(クイックスキャンXAFS)も可能となっています。 近年は透過法XAFSとエネルギー走査X線回折を組み合わせオペランド解析などの利用も行われています。





CTおよびラミノグラフィ測定、X線トポグラフィ (BL16B2)

 BL16B2では最大で5mm(H)×50mm(W)の大きな面積の単色X線を得ることができる。 そのX線を利用してイメージング実験を行うことが可能です。 Xsight Micron LC、ORCA-Flash 2.8、Zyla 5.5、フラットパネル検出器といった2次元検出器を保有しており、 これらのX線カメラおよび高精度の回転ステージを用いてマイクロX線CT計測やラミノグラフィ計測が可能です。 Step scanおよびOn-the-flyいずれの計測も可能なソフトウェアを備えており、これらを用いることで数μmの空間分解能を得ることができます。
 一方で、大きな計測対象の観察のために非対称結晶を用いて20mm(H)×50mm(W)の入射X線を実現する非対称結晶を保有しています。 このサイズのX線に対してはZyla 5.5を用いて20mm角以上の観察が可能であり、大面積のマイクロX線CT計測が可能です。 また非対称結晶及び対称結晶を用いた屈折コントラスト型位相イメージングも可能です。
 BL16B2で得られる5mm(H)×50mm(W)の入射X線を用いてφ2インチの単結晶基板のX線トポグラフィ計測が可能です。 大型実験架台上のθ/2θゴニオを利用し、フラットパネル検出器をその入射角制御の調整に用いることで極めて効率的な調整が可能となっています。 またSi等の完全結晶の評価のための高精度タンジェンシャルバー式の一連ゴニオおよび二連ゴニオも備えています。





ガス取扱設備 (共通設備)

 産業利用で重要なその場解析を実現するためには雰囲気制御が一つの重要な環境です。 ガス雰囲気を試料に供給しながら計測を可能にするため、その場計測用ガス装置が備えられています。 供給/排気弁を切り替えることによりBL16XU、BL16B2どちらでも使用が可能です。





グローブボックス (共通設備)

大気に晒されると変質してしまう試料を大気非暴露で計測するための試料準備が可能です。





X線回折装置(BL16XU※理研装置

BL16XUの8軸回折計は2024年度に理化学研究所に移管され、共用ビームラインの回折計と同じ仕様で測定ができるよう整備が進められています。 8軸回折計に合わせて、PILATUS100K、PILATUS300K-CdTe、XRD計測用試料加熱炉(AntonPaar社製)、 スパイラルスリット等が使用可能となっています。








(2025年2月13日更新)